2012年08月12日

三宅陽一郎 「京都大学の思い出」

※フィクションです。でも、本当の物語。

もうすっかり教室の外は夜の帳で満たされていました。たくさんの
生徒が帰路についた後、
電灯の下、教室には私と老教授だけが残さ
れました。

老教授はまっすぐに私をみつめると、こう言いました。


「三宅くん、人工知能とはさかさまの科学なのだよ。」
「さかさま?」
「そう。原理と現象が逆転しているのだ。」

「失礼ながら、学問とは、ユークリッド幾何学のように、
 仮説があり論証を重ねて行くものではないのですか?」

老教授は聞こえていないようで、聞こえているようで、
しばらく沈黙したあと、今度は窓の外に杖を指して言いました。

「見たまえ、三宅くん。あの宇宙を。我々人類はこの6000年というもの、
 あの宇宙を理解しようと、知識を積み重ねて来た。つまりそれは
 人間という知能が宇宙を理解しようとする試みだったのだよ。」

ごほっ、ごほっ、とそこで老教授は咳きこみました。

「先生...。」
「大丈夫じゃ。わしも長い間、知を探求して来た身じゃ。
 だいぶ、無理をした。ところで、三宅くん。
 三宅くんがしようとしている人工知能という学問は、
 その逆なのじゃ。君がしようとしている人工知能という工学は、
 宇宙に知能を作らせようとする試みなのじゃ。」
「宇宙ではありません。人間が作るのです。」
「同じじゃよ。人間が自由にできるものなど、何もありはせん。」
「はい。」

私はわかったような、わからなかったような返事をした。

「いいか。三宅くん。君がいくらプログラムを書こうが、
 電気回路をつなごうが、それは、この宇宙が我々人間を作り出し
 奥深い過程を、稚拙ながら模擬しているに過ぎぬ。ちょうど、
 人間がこの宇宙を人間なりのやり方で、知って来たようにな。」
「はい。」
「結局のところ...」

老教授は少しにやけながら続けた。

「われわれ人間は、本当の真理にも、本当の生命を作り出すことにも、
 たどりつけやせん。我々は宇宙と生命のはざまの存在で、
 宇宙を眺めては、宇宙を知りたいと願い、
 人間と接しては、人間を作り出したいと願い、
 人間という足場から僅かばかり天に手を伸ばしたり、
 人間という足場を僅かばかり掘り進めてみたり、
 それでも人間という存在からは離れられず、
 しがみついている存在に過ぎん。」
「はい。先生。」

僕は涙を流していた。何も彼の言葉に感動したわけではない。

「お別れです、先生。」
「ああ。知っとるよ。今日で君は卒業だ。おめでとう。
 これがわしから君の卒業へのプレゼントじゃ。
 世間は君が思っているほど甘くないぞ。
 ただ、君を良く理解してくれる友達を集めるといい。
 そんなに多くはないだろうが、世の中には自分を理解してくれる
 僅かばかりの友人が見つかるようにできているのだ。
 それは君のような気難しい人間でも同じことじゃ。
 あきらめなければ、君は楽しくやって行けるよ。」
「ありがとうございます。」

私は深々と礼をして教室を出た。校舎の外は寒く、時計台がぼんやりとオレンジ色に輝いていた。
そして見上げる冬の空には、はっきりとオリオン座が輝いていた。

しばらくして、先生が亡くなったという連絡を受けた。

私は天に向かって泣いた。私はその時、世間で最初に自分を理解してくれていたのは、
他ならぬ先生その人であったことを悟ったのだ。

(三宅陽一郎 「京都大学の思い出」 )

posted by miyayou at 19:30 | TrackBack(0) | 日記

2012年08月11日

論説 「ゲーム産業のこれから」


日本という国は、海外から文化や技術を取り入れるのが得意な国でした。だから明治維新後、もの凄いスピードで300年分の知識と技術を取り入れました。何しろ300年分を30年で吸収するなんて凄いと思いました。でも、残念ながら技術や知識を自分たちで積み上げることをあまり学びませんでした。


知識を自分たちで作り上げるのと、人が作った知識を取り入れるのでは、スピードが全然違います。1000対1 どころではありません。だから、知識を輸入することばかりに慣れてしまうと、だんだんと、自分たちでわざわざ知識を作り出すことが馬鹿らしく思えて来ます。そこで、知識を作り出す土壌を作り出せなかった文化は、根の弱い文化にしかならないのです。


今、ゲーム産業で大切なのも、そういうことです。我々はたくさんの知識を輸入しようとします。もちろん、それはとても大切なことです。しかし、我々自身が、自ら作り出す知識がなければ、そこにオリジナリティーも価値も生まれません。オリジナリティーの価値がなければ、それを受取る側の人には価値がないのです。輸入したものを輸出したのでは、日本という国のゲームの価値がだんだんと海外から見えなくなってしまいます。


勉強会もたくさんあります。技術の本もたくさんあります。それは素晴らしいことです。特に、この業界では、人より早く新しい情報を得ることに価値があります。 でも、人から得た情報は自分自身で生み出したものではありません。遠い場所から流れて来た情報に一喜一憂することは感度の高い人間として素晴らしい資質であるにせよ、クリエーターはその先に、たとえ得ることの1000倍の時間を使っても、自分自身でしか生み出せないものを生み出さないといけないのです。そして、それをコミュニティの中で共有して、積み上げて行くことで、強い存在感を持ったコンテンツを生み出して行くことができるのです。


得た情報を積み上げて行くことは本当に大切なことです。そして、その上で、最も大切なのは、我々自身が、我々自身の手で、我々自身が生み出したものを積み上げて行くことです。それこそが、日本のゲームの強い発信力となります。
posted by miyayou at 21:14 | TrackBack(0) | 日記

2012年07月19日

三宅陽一郎 講演資料・論文集(2)

三宅陽一郎 講演資料・論文集(2)


三宅の論文と学会・大学・ゲームカンファレンスにおける講演資料をまとめました。
ご参考ください。


SIG-AI まとめサイト
 https://sites.google.com/site/igdajsigai/home/past-activities

もご参考ください。よろしくお願いいたします。


三宅 陽一郎 講演資料・論文集 (2006-2011)


○ Contact Information __________________________________

Youichiro Miyake 三宅陽一郎

Mail:     y.m.4160(あっと)gmail.com
Twitter:    @miyayou
Blog:    http://blogai.igda.jp
LinkedIn:   http://www.linkedin.com/in/miyayou
Facebook:  http://www.facebook.com/youichiro.miyake




○ 講演資料・論文集 (2006-2007)については以下にまとめています。 ___________________________

ゲームAI連続セミナー「ゲームAIを読み解く」全講演資料
 http://blogai.igda.jp/article/33936286.html



○ 講演資料・論文集 (2008-2010)については以下にまとめています。 ___________________________

三宅陽一郎 講演資料・論文集
 http://blogai.igda.jp/article/46500782.html




○ 2011年度 講演資料・論文集 ________________________________________________________________

【タイトル】デジタルゲームAIとプロシージャル技術 - 柔軟なデジタルゲーム・コンテンツを目指して-
【内容】エージェント・アーキテクチャとインフォメーション・フローの基礎を解説します。
【日時】2011.7.28 神奈川工科大学
【ファイル名】YMiyake_KAIT_2011_7_28.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_KAIT_2011_7_28.pdf


【タイトル】ゲームデザイン・パターンランゲージの必要性
【内容】「ゲームデザイン・パターンランゲージの必要性」「 コミュ二ティの形成とパターンの収集」「これからの展望・目標」
【日時】2011.9.12 ソフトウェアエンジニアリングシンポジウム2011  http://ytx.ws.hosei.ac.jp/SES2011/cfpws.html
【ファイル名】ses2011-ws5-miyakey.pdf
【URL】http://ytx.ws.hosei.ac.jp/SES2011/ws/ses2011-ws5-miyakey.pdf


【タイトル】集合地を用いたゲームデザインのためのパターンランゲージ抽出
【内容】ゲームデザインのパターンランゲージを収集するための手続きと具体例を提示する。
【日時】2011.10.6 AsianPLoP 2011: 2nd Asian Conference on Pattern Languages http://patterns-wg.fuka.info.waseda.ac.jp/asianplop/
【ファイル名】asianplop2011_submission_18.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/paper/asianplop2011_submission_18.pdf
http://patterns-wg.fuka.info.waseda.ac.jp/asianplop/proceedings2011/asianplop2011_submission_18.pdf


【タイトル】次世代ゲームAIアーキテクチャ
【内容】次世代ゲームAIアーキテクチャ
【日時】2011.10.8 スクウェア・エニックス オープンカンファレンス
【ファイル名】http://www.square-enix.com/jp/info/library/dldata/AI/AI.pdf
【URL】http://www.square-enix.com/jp/info/open_conference.html


【タイトル】人工知能からゲームの未来を視る
【内容】デジタルゲームの人工知能の6つの基本型を解説すると同時に、この学問が持つ最も基本的な部分を掘り起こす。
【日時】2011.10.28 東京大学 
【ファイル名】YMiyake_TokyoUniv_2011_10_28.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_TokyoUniv_2011_10_28.pdf


【タイトル】ゲームが進化させる人工知能
【内容】ゲームユーザーが知能を感じるのはなぜか?「ゲーム感受性」という概念を軸に解き明かして行きます。、
【日時】2011.11.6 神奈川工科大学
【ファイル名】YMiyake_KAIT_2011_11_6.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_KAIT_2011_11_6.pdf


【タイトル】AI、芸術、エンターテインメント
【内容】人工的な知性を作ろうとする試みは芸術と科学の双方で進められて来た。そのクラスロードを問う。
【日時】2011.11.28 東北芸術工科大学
【ファイル名】YMiyake_TUAD_2011_11_28.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_TUAD_2011_11_28.pdf


【タイトル】日本のアニメーションにおける ― 事例をベースとしたアニメーションにおける人工知能の表現型の分類 ―
【内容】日本のアニメーションの中で描かれて来た人工知能の系譜を解き明かします。
【日時】2011.12.4 コンテンツ文化史学会2011年大会「オタク・ファン・マニア」
【ファイル名】anime_ai_20101212_01.pdf JACHS_Anime_AI_2011.pdf
【URL】
(PPT) http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/anime_ai/anime_ai_20101212_01.pdf
(予稿) http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/jachs/JACHS_Anime_AI_2011.pdf


【タイトル】次世代ゲームと人工知能
【内容】次世代ゲームに必要な人工知能の基盤技術を解説する。
【日時】2011.12.16 東京工芸大学芸術学部ゲーム学科
【ファイル名】YMiyake_Tokyo_kougei_Univ_2011_12_16.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_Tokyo_kougei_Univ_2011_12_16.pdf


【タイトル】The Future of AI, Game, and Computer Graphics
【内容】これまでの10年、これからの10年のゲームAIの未来を語る。
【日時】2012.2.25 立命館大学(京都)
【ファイル名】YMiyake_GameOnAsia_2012_2_25.pdf
【URL】http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_GameOnAsia_2012_2_25.pdf


【タイトル】はじめてのゲームAI 〜意思を持つかのように行動するしくみ〜
【内容】デジタルゲームの人工知能の6つの基本型を解説する。
【日時】2012.4.24 WEB+DB PRESS Vol.68
【URL】http://gihyo.jp/magazine/wdpress/archive/2012/vol68


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三宅陽一郎 講演資料・論文集(3)
http://blogai.igda.jp/article/66585525.html

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posted by miyayou at 23:29 | TrackBack(0) | 日記

ゲームの持つ意味・意義

人は抱え切れない悲しみや苦しみに出会って自分のカタチを失ったときに、ある種の暗闇を通って再び精神的に生まれ変わるという過程を必要とする場合がある。ある時はそれは巡礼であり、ある時は大江健三郎が描くような井戸に潜る行為であり、ある時は本当の洞窟をくぐり抜けることである。

現代人にとってその代替となるのは
深い体験を与える物語であり、物語を与えることができるのは3つのメディアしかない。小説、映画、そしてゲームである。その中でもゲームはインタラクティブに体験を与えることができる唯一のメディアであり、ゲームはそこで現代人に対する深い井戸の役割を持つことになる。即ち、その世界に入り、通過し、再び新しい姿で出づるという体験である。そしてゲームは積極的にそのような役割を引き受けることで、深い文学作品のような、芸術作品としての映画のような、新しく本質的な価値を持ち始めるのである。
posted by miyayou at 23:25 | TrackBack(0) | 日記

2012年07月16日

技術と、コンテンツと。

どんなゲームを作るかということと、いかにそれを実現するか、ということは、分けて考える必要があります。一方で「なにを」と「いかに」は有機的な関係にあり分かち難くあることも確かです。しかし日本ではその同一性を重視するあまり、コンテンツの系譜とテクノロジーの系譜が一緒にされて来ました。

現代のゲーム産業においては、コンテンツとテクノロジーという二つの柱を同時に独立に屹立させ発展させる必要があります。しかし日本のゲーム産業におけるコンテンツの系譜とテクノロジーの系譜の混合は、逆に双方を混然とさせ、相互に発展を抑制する矛盾に陥って来ました。それがこの10年の敗因の一つです。

開発者の意識として重要なことは、技術は技術としてゲーム産業全体で積み上げること。どんなタイトルでも挑戦した技術はまとめ上げ可能は範囲で共有すること。できれば社外でも発表し学術や社会との結びつきの中で発展させること。同時に日本の誇るコンテンツの系譜はコンテンツとして、ゲーム産業の成果物として独立して積み上げて行くこと。

技術とコンテンツを切り分け、二つの柱を同時に築いて行くこと。
そしてその上で相互の有機的な結びつきを構築して行くこと。

コンテンツと技術がお互い高め合うためには、まず一度分離させて双方を独立にお互いのために発展させ高めて行くことが必要です。この考え方がこれからのゲーム産業の発展の鍵を握っていると考えます。
posted by miyayou at 17:56 | TrackBack(0) | 日記

2012年06月23日

抽象と具象の間で〜人工知能と数学について〜

数学は長い歴史を持ち、何人もの天才が作り上げて来ました。抽象的な理論を作った人々は、その裏にその前の時代が培って来た豊富な具体的な事例を持っていました。しかし、後世の作り上げられた抽象的な理論を学ぶ人は、残念ながら、巨匠の手によって作られた理論に登ることはできても、具体的な事例に降りて来れない、ということがよく起こります。逆に、具体的な事例から抽象的な理論に登れないということもあります。具象と抽象の間を自由に行き来するということが、力を持つということです。

同じように人工知能で
も、作り上げられた理論を学んだり、そのフレームの中で仕事をすることはできても、知能のいきいきとした具体例まで降りて来れない、ということが起こり始めています。大切なのは、目の前のたくさんの知性をよく観察することです。人間も、蟻も、鳥も、そして自然界の全体が、知能を探究しようとする人にとって、最大の教師ということを決して忘れてはなりません。そして、そういった自然と知能の理論を結び付けようとし、その間に深く横たわる深淵を見るとき、知能と人工知能の両者の違いが浮き彫りになり、ちょうど芸術家が自然の造形に深く畏敬の念を抱くように、知能に対する深い畏敬と理解に達することができます。
posted by miyayou at 12:23 | TrackBack(0) | 日記

ゲームAIラウンドテーブル・オン・ツイッター(2012年6月)

本日、23日(土曜日)、24:30-26;00 に
ゲームAIラウンドテーブル・オン・ツイッターを開催します。

司会 : @miyayou
ハッシュタグ: #gameai_rt24

前回: http://togetter.com/li/295573

日時 : 6月23日(土曜日) 24:30-26:00

テーマ: 「動物に宿る知性」

 蟻やライオンや鳥や、生き物が持っている知性を学び、ゲームに応用してみよう。

という方向に関して議論します。所定の時間にツイッターにお越しください。

推奨環境: 普通にツイッターでハッシュタグを追うだけでもよいですが、

                tweetchat http://tweetchat.com/

      にログインしてハッシュタグを設定すると自動的にハッシュタグのつぶやきを
      取得し、ハッシュタグ付きのつぶやきができて便利です。
posted by miyayou at 07:28 | TrackBack(0) | 日記

2012年06月21日

講演資料公開 「Game-On Asia 2012」基調講演・日本デジタルゲーム学会2011年度若手奨励賞受賞記念講演

Game-On Asia 2012 http://www.eurosis.org/cms/index.php?q=node/1894

における

基調講演 「The Future of AI, Game, and Computer Graphics」 の講演資料です。

http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_GameOnAsia_2012_2_25.pdf

日本デジタルゲーム学会2011年度若手奨励賞
http://www.digrajapan.org/modules/news/article.php?storyid=382

記念講演を兼ねます。

皆様、ありがとうございました。
posted by miyayou at 00:18 | TrackBack(0) | 日記

2012年06月20日

講演資料公開 (東京工芸大学芸術学部ゲーム学科)

2011年度行いました 東京工芸大学芸術学部ゲーム学科 http://www.t-kougei.ac.jp/arts/game/

における講演資料です。ゲーム教育に尽力できれば幸いです。

「次世代ゲームと人工知能」(東京工芸大学)2011.12.16
 http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_Tokyo_kougei_Univ_2011_12_16.pdf

posted by miyayou at 23:40 | TrackBack(0) | 日記

講演資料公開(東北芸術工科大学)

昨年度行いました 東北芸術工科大学における講演資料です。
たいへんお世話になりました。

「AI、芸術、エンターテインメント」(東北芸術工科大学)2011.11.28
 http://igda.sakura.ne.jp/sblo_files/ai-igdajp/academic/YMiyake_TUAD_2011_11_28.pdf

posted by miyayou at 23:37 | TrackBack(0) | 日記